なんでもない話

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なんでもない話

エレベーターを降りると、雪風が吹き付けてきた。 「寒っ」 肩をすくめて部屋へと急ぐ。 通路の先、俺の隣の部屋前に、大柄な男が立っている。最近越してきたお隣さんだ。 黙って後ろを通り過ぎようとしたが、途方にくれたような雰囲気が気になり、声をかけた。 「どうかしたんですか」 「鍵、なくしちゃったみたいで」 「鍵屋さん呼べばいいじゃないですか」 「スマホ、部屋の中に置いたまま出社しちゃったんです。このへん公衆電話もないし……」 どんだけ鈍臭いんだこのひと。 「……じゃあ俺が呼びますよ」 「すみません」 「……もしもし、……はい、◯◯市の◯◯マンション七〇五号室です。はい、よろしくお願いします。……呼びました。三十分後にくるそうです」 「ありがとうございます」 白い息を吐きながらペコペコ頭をさげられた。 「いえ、では……」 部屋に入ろうとしたが、コートの襟を立てて手をすり合わせる男を見て、ドアノブにかけた手を止める。
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