茜色のパン屋さん

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「今の、よく聞こえましたね。耳、いいんですね」 「うん。バンドやってるから、本当なら耳が遠くなりそうな筈なんだけどね」 「スゴい。バンドとかやってるんですね」 「うん。ヴォーカルとギター、両方やってるよ」 どこからともなく、魚を焼いた匂いが鼻を掠めてくる。 「裏手の家からかな。秋刀魚かな」 パン屋のお兄さんの言葉に、私はカステラパンの最後の一欠片を口に放り込み、最後の一口用にと残しておいた珈琲を飲み干してから答えた。 茜色の空を見ながら、清々しい気持ちで。 「秋ですね」 置いた珈琲カップの傍に、アキアカネが一匹、静かにとまっていた。 ーーENDーー
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