第一回 宇都宮

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「なあ…良香、そちは今年でいくつになった…」 「二十歳になりましてございます」 「そうか…わしもそのぐらいの歳のころには千葉道場へ行っておったなぁ…」 県は湯飲みを口に運んだ。 「そなたはまだ若い… 思う存分外の世界を見てくるとよい… わしも訥庵先生の門下じゃ そなたらの無念の気持ちは解る だが、決して命を粗末にするでないぞ…」 「ご心配痛み入ります」 良香は頭を下げた。 城を出ると城門には廣田精一(執中 もりなか)と岸上文次郎(安臣)が待っていた。廣田は二十三歳で藩校修道館の教授であり、岸上は二十六歳で助教授をしている。どちらも良香と同じく大橋訥庵から教えを受けていた。 「お二人とも、なぜこちらに」 「我らは先ほど修道館へ暇乞いをしてきましてな 城の前を通った時に門番に話しかけたおり、貴殿が入ったと言うので待っていたのだ」 岸上は笑顔で答えた。 「我らは宇都宮大明神に行くのだが良香殿も行かぬか?」 廣田の問いかけに良香は頷いた。 宇都宮大明神とは現在の宇都宮二荒山神社のことである。宇都宮市の中心にあり明神山の山頂に鎮座している。 石の階段の下には大鳥居があり、そこからは賑やかな門前町が広がっている。 「いつ来ても活気がありますな」 廣田は山頂にある鳥居の真下から町を見下ろしていた。宇都宮藩は交通の要所であり、多くの旅籠があった。旅籠があれば料理屋、呉服屋などの商業施設が出来る。町は人通りが多く小江戸と呼ばれるほど賑わっていた。 「あぁ、そうだな… 訥庵先生と見た景色とも一緒だ…」 岸上は腕組みをしながら嘆息した。
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