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屋上からグラウンドを見降ろし、私は独り言を漏らす。きっと声に出していないと、死ぬ決意が鈍ってしまいそうだったからだと思う。
深呼吸をし、フェンスを乗り越えて飛び降りの準備を整える。
「……普通に、生きてみたかったな」
幸福じゃなくてよかった。けれど、私は普通にすらなる資格が無かった。だから、来世ではせめて普通くらいにはなってみたいな。そんな事を考えながら、生温い風に身を任せて身体を前に倒した。
「さようなら……」
「危ない!!」
けれどその瞬間、倒れかけていた身体がものすごい力で後ろに引っ張られ、私は屋上へと引き戻される。
「はぁ……っ、はぁ……良かった、間に合って」
私を寸前の所で引っ張り上げたのは、サッカー部の香川 幸也という生徒だった。
サッカー部のエースで、顔も良く私とは正反対に位置する人気者。クラスは別だったが、そんな私でも知っているほどの有名人だった。
「何……誰、邪魔……しないでよ」
「邪魔するに決まってるだろ! 校庭から君が屋上にいるのが見えたから、まさかとは思ったけど……自殺なんて馬鹿げているよ!」
彼のような幸福な人間に、私のような人間が自殺を決意する理由など分からないだろう。
彼からすれば、私のような人間は馬鹿げているに決まっている。
「あんたに……何が分かんの……っ、なにも知らないくせに……」
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