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「用ならちゃんとあるよ。娘の父親を捜しているの」
「はい? 逸れたのならそれこそ交番にでも行ったらどうです。警察くらい呼んで差し上げますよ」
香川は再び携帯電話を開き、警察を呼ぼうとする。
「その必要はないよ。だって父親はあなたたち3人の中の誰かだもの」
香川の手から、携帯電話が滑り落ちた。
「……一体、何を仰っているのやら」
「忘れた? あなたが10年前に犯した罪を。藤倉 唯を強姦した挙句に妊娠させ、そしてあなたたちは逃げた。『蜥蜴の尻尾切り』みたいにね」
唯の言葉に、香川は一瞬、動揺したが、再び落ち着きを取り戻し、落とした携帯電話を拾い上げる。
「知りませんね。これ以上何か言うのなら本当に警察を……」
「……奥さんと娘さん、今頃は飛行機で空の上だと思ってる? 違うよ、彼女たちは飛行機になんて乗っていない。どこへ行ったと思う?」
「なんだと?」
香川の表情が一変した。
嫁と娘の旅行の事を言いふらした覚えもない。なぜ、この女がそれを知っている?
「雨も強くなってきた。とりあえずこの豪邸の中に入れてくれない?」
嫌な予感がした。
唯をこのまま帰せば、何か取り返しのつかない事が起きる……そんな不安もあってか、香川は唯を家に入れた。
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