第一話 『邂逅』

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第一話 『邂逅』

 昭和三十一年、私は怪物と出会いました。  けれどその怪物は童話のような異形の姿をしているわけでも、異能を宿しているわけでもありません。  その怪物は、人の形をしていました。人の皮を被って、普通の建物に住んで、昭和の日本社会に溶け込み……そして、自らの欲のために多くの人間を殺していたのです。  怪物を、怪物と認識できない事が、最も恐ろしいのです。    これは人の骸を積み上げ、城を築いた昭和最大の鬼畜・池田 雄一と私、湯川 恵子の記録です。  私……湯川 恵子は戦後の新天地を目指し、田舎の青森から大阪へと出向き、就職をしました。  しかし、たったの二月で辞めてしまったのです。なぜか? それは自身の無能と空虚に嫌気が指したからです。  頭も悪く、愛想もなく、どんくさい。それに加え世間知らずの田舎もの。我ながら空っぽな人間だったと思います。そんな自分が、大嫌いでした。  ただ、生きる理由もなく漠然と生き続ける空虚な自分。一層の事、戦争で死んでおけばよかったと思うくらい、私は自分の空虚な人間性も、人生も好きになれませんでした。     
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