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第五話 『人質』
住み込み採用の話がまとまると、池田は手際よく履歴書を机の上に置きました。まるで私の返答を待ち構えていたかのようでした。
「おし、そんじゃとりあえず履歴書頼むわ。手伝いとはいえ、形式上は必要やねん。すまんの」
「ええ、もちろんです」
私は何の躊躇いもなく履歴書を記入し始めました。
しかし、今思えばその履歴書は異様でした。自身の情報だけではなく、実家の所在、家族構成、家族の勤め先……項目が一般的なものに比べ多かったのです。
「ほんで実家の住所と、連絡先、ああ家族構成と勤め先も頼むわ。知っておけることは知っておきたいんや」
ここまで知る必要があるのか? 疑問に思いながらも私は黙って書き進めました。何故ならこの時、池田を疑う気持ちなどありませんでしたから。
こうして私は自身の持つほとんどの情報を池田に譲渡してしまったのです。
「なぁに、こんな若い娘預かるっちゅうんや、近いうち親御さんにも挨拶せんと。まぁ、それで青森の親御さんも一安心やな!」
今思えば、これは私を逃がさないための下準備でした。この忌まわしき『池田昭和建設』と言う名の『城』から。
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