8人が本棚に入れています
本棚に追加
「何てことはなかったよ。やはり、ただのイタズラみたいだ。」
私は言った。高木には要らない心配をかけてしまったと、私は後悔をしていた。
指定された場所に行ったが結局何もなかったと、私は高木に説明した。
同姓同名の小学生については説明が面倒だったので話をしないことに決めた。
「いや、でも無事で良かったですよ。本当に先生が誘拐されたりなんかしたら、僕も困ります。」
高木が大真面目に言うので、私は余計に恥ずかしくなる。
「ああ、仕事に戻ろう。」
私はそう言って、いつものくたびれた椅子に座った。
パソコンの画面を開き、溜まったメールを確認していく。その殆どはメルマガの類だったから、中身を開くこともせずに削除する。
同じようにチェックボックスをクリックしようとした瞬間、一通のメールのタイトルが目に留まる。
”Fw: 榎本和宏を誘拐した”
まただ。あの手紙の送り主と同じ人間の仕業に違いない。
私は怪しい添付物が無いことを確認して、恐る恐るメール本文を開く。
”10月2日(火)新大久保 スタジオゾラ 19時00分。榎本和宏を返して欲しければ、1人でそこに来い。”
やはり2通目の脅迫文と同じような内容だ。
私は高木のデスクをチラッと見るが、彼はいつものようにパソコンに向かっている。
スタジオゾラ。
その場所はやはり私のよく知っている場所だった。
「高木くん。今日は疲れたから先に失礼するよ。」
私はそう言ってスーツの上着を羽織り直す。
「あ、はい。そうですよね。お疲れ様でした。」
高木は心配そうな顔で私を見送る。
やはり私は進むべきではない道に足を踏み入れてしまったようだ。
最初のコメントを投稿しよう!