第一章 主旨説明

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クラスの真ん中、1番前の席に彼女は座っている。 1番前なのは多分、目が悪いからだ。女の子らしいセルフレームだけど、割と厚いレンズの眼鏡を掛けている。 髪は背中にかかる位のストレート。当然黒髪で、さらさらしてる。肌は限りなく白い。ほっそりとした輪郭に切れ長の瞳、高い鼻、薄い唇。うん、美人だね。化粧映えしそう。 体つきは全体に華奢。制服の上からでも、すごく細いのが判る。これでそんなに行動力があるの? 不意に、彼女が私の方を見た。 ・・・まずい、じろじろ見ていた視線を感じたか?慌てて目を逸らしたけど、彼女の方は未だに私の顔を見ている。 ・・・ありゃ変に思われちゃったかな。 そうこうする内に、チャイムが鳴った。稲井先生はチョークを置いて、 「じゃあおしまい」と生徒達へ向き直る。 「起立!」号令は長峰さんの役割だ。 挨拶すると先生は出て行く。私の役割は黒板を消す事だが、未だ書き写している生徒がいるので、暫し待つ。 「先生」 気が付くと、すぐ近くに長峰さんが来ていた・・・授業中の件かな?何て言おう。 「質問があるんですけど」 ・・・えっ勉強の話?う~難しいのやめて 背中に汗が流れるのを感じながら、彼女の方を向く。すると、何だか少し恥ずかしそうにうつむきながら、上目使いで私を見ている。それから、胸で組んだ両手から左手の人差し指を伸ばして、慎ましやかに私の首元を指した。 「そのネックレス素敵ですね」 「えっあぁこれ?ありがと、気に入ってるの」 それは去年の誕生日に買った、輪の中でハートが揺れるシルバーのネックレス。ちょっとしたお守り気分で、いつも身につけていた。 「そういうの、何処で買うんですか?」 ・・・どうやら、彼女の言う『質問』とは、これだったようだ。 「あぁネットよネット」 と言うと、彼女は顎に手をあて、眉間にしわを寄せてうつむき、呟いた。 「ネット・・・」 どうかした?と思っていると、彼女が顔を上げ、苦笑いを浮かべながら言った。 「私、ネットとか・・・メカが苦手で」 メカって言う? 「簡単よ。じゃあ今度、私のお薦めのサイト教えてあげる」 「本当ですか?嬉しいです」 そう言って、彼女は無邪気に微笑んだ。そして、2つある黒板消しを片方手にした。 「あっ黒板消すの手伝います」 「ありがと」 並んで、みっしりと書かれた文字を消しつつ、私は改めて彼女を見ながら思った。
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