4月 矢崎茉莉というクラスメイト

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4月 矢崎茉莉というクラスメイト

 人には皆、運命の出会いというのがあるのかもしれない。  少なくとも俺には、運命の出会が訪れた。  この高校を選ぶのに、深い意味はなかった。  『家から近いから』  ただそれだけの理由で高校を選んだ。  でも……。  俺は今、この選択に心の底から感謝していた。  何故なら……。   俺の隣の席に、とても可愛いクラスメイトが座っているからだ。  いや、可愛いというより美人といった感じだ。  そして俺は、彼女のことを知っていた。  初めて彼女を目にしたのは、中学校の修学旅行のときだった。    偶然修学旅行先が同じだった別の中学校。その生徒の中に彼女はいた。  容姿端麗とはまさに彼女を指す言葉だと思った。  その彼女が今、俺の隣の席にいる。  名前は矢崎茉莉(やさき まり)。  座ったままでもスタイルの良さが窺える、白くて長い手足。  後ろで纏めた、艶のある僅かに茶色かかったロングヘアー。  大きな瞳とぷっくりとした唇からは、色気すら感じる。  本来、生貝(いけがい)という俺の名字からは50音順では遠すぎて、席が隣になることなどありえなかったが、この高校は50音順で出席番号を決めない変わった学校だったため、天文学的な確率をすり抜けて、席が隣同士となった。  「矢崎です」  軽く会釈しながら、隣に移動してきた彼女は微笑みながらそう口にした。  「あ、どうも。生貝です」  そのあまりの可愛さに、やや言葉に詰まりながら答える俺。  眩しい。  容姿に恵まれ、笑顔も完璧な彼女のことが、俺には余りにも眩しかった。    それでも、隣の席が可愛い女の子なのは素直に嬉しい。それだけで日々に潤いが生まれそうな気がする。  これからの高校生活、楽しいものになるだろうか。などと考えているうちに、高校生の初日は時間が過ぎていった。
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