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そう考えると、雲の上の存在に思えていた矢崎がとても近い存在のように感じられた。
4月が終わる頃には隣の席ということもあり、矢崎とそれなりに話をするようになっていた。
俺は中学校の修学旅行の際に、彼女を見かけたことは伏せたままにしていたが、あれが本人だったという確証はないし、話す必要も感じなかった。
「遠目で見て可愛いと思った」などと、この口下手な俺が言えるはずも無い。
それと、会話をするうちに分かったことだが、矢崎はやはり勉強が苦手なようだ。
「英語って中学の時点で躓いてたから、今更どうしようもないんだよね」
「数学……。人生で必要ある?」
などは矢崎の弁だ。
そんな話をしては、俺のノートを写させてと言ってくる。
俺は元々課題を真面目にやるタイプではなかったが、矢崎が貸してくれと言ってきてもいいように、毎回課題をするようになったし、多少字を綺麗に書くようになった。
席が隣同士以外には、これしか彼女との関わりがない。
か細い繋がりだが、それでもこの関係を維持していきたいと俺は思ってしまっている。
1ヶ月も経たないうちに俺の中には矢崎に対して、『可愛いなぁ』だけではない感情が芽生えつつあった。
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