社畜はスター

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 皆さんの夢って何ですか?  ぼくの夢はひとを笑顔にすることだ。場所がどこで相手がだれで、環境がどうであれ、ぼくの仕事でひとが笑顔になれるならぼくはなんでもする。今でもその気持ちは変わらない。 そう思えるようになったのは、二度目の転職をしたあとだった。 断っておくとぼくはコメディアンではない、那智京一は介護福祉士だ。福祉の専門学校を卒業後に資格をとり、実家から離れた特別養護老人ホームで働くことになった。これまでのぼくは、どちらかと言えば「したくない仕事を我慢してしながら、その日暮らしをしている」人間だったのだ。 介護の仕事は、これから高齢者が増していき需要が伸びるから給料がいいと知らない人はそう言うけれど、そんな甘いもんじゃない。仕事の中で安い方と言えるだろう。兎に角「誰かの弔い」や「今必要だから」という簡単な理由で就職しない方が身の為だ。尤も、給料で選んでも人間関係で辞めたら本末転倒だが......  求人票を信用し過ぎてはいけない。  ぼくは、転職する前の職場でも、したあとの職場でも社畜扱いされて来た。それで辞めたくなったことも何度かあり、出勤すれば休憩時間はぼくの陰口をきくことなる。  「あの子は何年経ってもオムツ交換が出来ない、何回教えてもダメだ」  「頭バカなんじゃないの、障害があるんでしょう。診て貰えばいいのに」  「辞めて他行けば良いのに、ま、他行っても通用しないだろうけど」  「ほんとにあの子資格持ってるの、あの子と一緒にしたくないよ」  こんな呪詛が毎日のようにぶつけられ、ぼくはトイレで血尿が出るほどのストレスに曝され続けた。
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