社畜はスター

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 「何も出来ないなら、何もするなっ!」  酷い場合はこう罵られ、それまで任されていた仕事の殆どを取り上げられた。それを良いことに、ロッカーの中の財布からお金を何万と盗まれ、タバコの吸い殻を入れられたり、靴を踏んづけられるという苛めも受けた。最悪は「先輩の言うこと聞けないのか」と仕事を押し付けられもした。 上の人に訴えてやろうかと思ったが、ぼくがお人好し過ぎた。 訴えてその人のキャリアが崩れてしまうのが怖かったが、相当鬱憤がたまっていたのだろう。次やったら刺し殺してやる。気が済まなければ血族が根絶やしになるまで殺戮を続けてやるとさえ考えていた。 だから、ぼくはひとを話すことが厭になり、昼食は職場から少し歩いた所にある小さな公園でひとりで食べることにした。 名前は分からないが、丸太形のテーブルと椅子が二組と、飛行機形のアスレチックに、チューブの滑り台、それからブランコや水が出なくなった水呑場が設置された公園だ。平日はノラネコたちが戯れているが休日になると、家族連れがよくここに遊びに来る。 公園から一ブロックのところにあるコンビニで買った弁当を持って行き、飲み物は公園前にある百円の自販機のカップの野菜ジュースを買う。消費税が値上がりしたというのに百円で飲み物が買えるのはぼくにとってはとても有り難い。  「那智くんじゃない。また来たの?」  ベンチでコンビニの弁当を広げると、決まって彼女が話しかけてくる。  「なんだ。また来たのか?」  ぼくは、足元に座り込んで話しかけて来た一匹のノラネコにそう答えた。灰色の体をしているが雑種のネコだろう。食べ過ぎなのか妊娠しているのかお腹がボテっとしている。 ほかのノラネコはぼくを見たら一目散に逃げ出すのに、彼女だけは逃げようとしないので、特別な存在に感じた。ぼくにとって、唯一孤独を忘れさせてくれたのも。  「何時もひとりで食べてるの?」  「職場で食べたくないんだ。お前もひとりだろ」  「余計なお世話です、ひとりがいいのよ」  「どうだか、どうせ餌目当てなんだろ。ほら」  ぼくは、コンビニ弁当に入った唐揚げのマヨネーズかけを、ビニールの蓋に乗せて彼女に差し出した。
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