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すると少女は自分の外套を脱いで日陰を増やした。すぐに座り直したとき、わずかな隙間を開けて俺に背を向ける。昨夜の熱い営みをすっかり忘れた俺の女は、よそよそしく明後日ばかりを睨んでいる。意地らしい横顔を益々気に入った俺は、彼女を下から眺めた。
「さっきのあれって、どういう意味?」
少女は凛とした声で、尋ねた。
「…それより、お前の名前は?」
「あんたが付ければ良いだろ? 私はもうあんたの女だ」
こいつは驚いた。
「…あの噂は本当なの?」
「どの噂だ? 何をどこまで知ってる?」
少女はこちらを向いて、大きな目を開けて近付いてきた。昨夜の濃密な感触が疼くけれど、俺はぐっと堪えた。是非とも自力で思い出して頂かねばならない気がしたからだ。
「お前、俺が怖くないのか?」
「怖いのは、…あんたじゃない」
奈落みたいに真っ黒い瞳を、俺は覗いている。本来ならば俺の顔が映ってもおかしくないのに、何も映し出さない虚ろな闇だけが、そこにはあった。
「私が怖いのは、この世の中の全てさ」
少女は唾を吐き捨てるように、憎々し気につぶやいた。
「こんな世界、とっとと滅びちまえばいいんだ」
少女は細い肩を持ち上げて、自分の両膝を抱き寄せた。酷く不安そうに顔を曇らせ膝に顎を乗せた。
「そのうち皆、勝手に死ぬから安心しろ」
「………」
「お前が殺したい男の腸は邪鬼が入り込んでる。内側から喰われて瀕死の面してただろ? 死臭も漂い始めてた。もう長くはない」
それに、あいつは俺達夫婦の大事な見届け役なのだ。花嫁の父ならば、言うことはない。
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