第3章

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 ガキン!  振りかぶった刃はいともたやすくはじき返された。反動でしりもちをついた途端に、もう一人が抜いた剣先が横払いの弧を描いて、私の前髪の先を削って行った。ビュンと空を切る音と共に両目を固く閉じたとき、その闇の中で白い髑髏(どくろ)が私を見て微笑んだ。  お前が、死か―――。 やっと、会えた。亡き母の顔が鮮やかに蘇る。    でも、次に気付いた時、焼けるように熱くなった身体は揺れていた。  大きな獣が私の喉を噛みちぎろうとしていた。でも、不思議と恐怖は感じられない。霞んだ視界の中に黒い影法師が立っているのが見える。瞬きしたら消えてしまった。死は、私の前から姿を消したのだろうと、思った。  口いっぱいに熱い液体が流れ込んでくる。その勢いに溺れそうになりながらも、身体はそれを欲していた。自分の意思とは違う強い力が私をコントロールする。ざわざわと肌が逆立ち、心臓が暴れているように激しく身悶える。  手を伸ばそうとしたら、掴まれた。長く鋭い爪が私の肌に食い込むけれど、傷付けられることはなかった。獣の長い舌が皮膚の汚れを舐めとるように、何度も擦られると大人しくできない。割れそうな身体から何かが生まれようとしていた。まるで、もう一人の自分が胸を裂いて内側から誕生するようだった。  終わりの見えない朝と夜の狭間で、果てしなく広がる荒野の中を、私はただまっすぐに歩いた。朝日が昇る場所を目指して、でも、どこへ向かっているのかも、本当は知らずに。
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