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窓を叩く雨音が恋しくなったのはいつからだったろう。
思い当たることといったら、もうどうしようもないほどに決まりきっていて、そこから目を背けきれるほど俺も薄情にはなりきれなくて。
でも、きっとこれでよかったんだ。
そう思い込もうとしても、もう駄目だった。
仰向けになって寝そべったまま雨粒が緩慢に流れる窓ガラスを眺めているベッドに染み付いた思い出が絡み付いてくるから。
『伸弥さん』
「もう終わったんだよ、俺らは」
記憶の中から呼び掛けられる声にすら、まともに向き合うことをせず、ただ枕元に放置しっぱなしになっていた缶ビールで眠ろうとするだけの俺が、ここにはいる。
すっかり泡も抜けて温くなった、どうしようもなく旨くないビールを流し込んだって、何も変わりゃしないのに。
雨音を聞くと、思い出す。
あいつ――漣と初めて会ったのは、こんな風に雨の降る、まだ明るい夏の夕方だった。
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