さよなら、あの優しい日々よ

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 嵐が来る音がした。  その雷鳴でミモレットは目を覚ました。  汗をびっしょりとかき、背中には洋服が張り付いている。水を飲もうとミモレットはベッドから身体を起こした。  グラスの水も汗をかいていた。渇いた喉に水が沁み渡る。  コンコンコン、とドアがノックされた。  ドアが開き、金髪の長い髪をまとめた女性、ブールが入って来た。手にはトレーを持っている。 「ミモレット、起きたのね」  ブールはミモレットの額に手を当てた。 「うん、熱はだいぶ下がったみたいね」  ブールは持ってきた粉を指差した。 「あとで薬草を飲んでね」 「ありがとう、お母さま」  ピカッとカーテン越しでも分かるほど外が光った。そしてザーッと雨が降る音がした。 「凄い雨。バケツをひっくり返したみたい」  雨が降る音は強すぎて威圧的にすら聴こえる。 「まるでこの世の終わりみたい」 「大丈夫よ」  ブールはミモレットの額に張り付いた栗色の髪の毛を払った。  ミモレットははにかみ、横になった。 「明日には完全に熱は引きそうね」  その声が優しくて、子守唄のように聞こえる。  安心させるようにブールは言った。 「おやすみなさい。愛しているわよミモレット」  その声が徐々に遠くなっていった。  暗闇の中、一面に泥が敷き詰められている。  早くここから逃げなければ。  ミモレットは足を動かすが前へ進まない。  逃げなきゃ、逃げなきゃ。  すると目の前にもう1人の自分が現れた。 「逃げるって何から?」 「それは勿論ーー」  そこでミモレットは自分の呻き声で目を覚ました。  部屋は静寂に包まれていた。  雨は止んだようで何も音がしない。  部屋は真っ暗で、ミモレットは手探りでランプを点けた。 「お母さま?」  そう呼びながら部屋を出る。廊下も真っ暗だ。 「お母さま?」  ミモレットはブールの寝室へ向かう。  床はひんやりと冷たく余計に孤独を感じた。  ギィ、とドアを開けるが誰もいない。  ミモレットは部屋を見て回った。キッチンも、今は使っていない部屋も、トイレも、玄関も。  ガタガタと風が窓を揺らした。そこでミモレットはカーテンを開け、窓の外を見た。  いつもは家々の灯りが見えるはずなのに何も見えない。  ミモレットは恐る恐る玄関のドアノブに手をかけ外へ出た。  月が出ていなかった。そこにはただ闇があるだけだった。 「誰か居ませんか」  ミモレットは大声を出した。
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