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隣の家のドアをノックする。けれど返事は無い。
窓を覗き込むもカーテンが閉められていて中の様子が見えない。
その隣の家も、またその隣の家も同じだった。
4軒目の家のカーテンは開いていた。けれど、室内は真っ暗だった。
目の前の風景が滲んだ。
しゃがみ込み、顔を膝に埋める。
どれほどの時が経ったのだろうか。
それは比較的短い時間だった。けれど、ミモレットを絶望させるには充分な時間だった。
一陣の風が吹いた。
遠くの方からウィーン、という聞き慣れない音がした。
顔を上げ、音がした方向を見るとほのかに明るい。
ミモレットはよろよろと立ち上がり、光る場所へ向かった。足取りはゆっくりと、しかし徐々に早くなった。
家々を抜け市場を右に曲がる。
ようやくミモレットは目的の場所に辿り着いた。
広場には見慣れない物体があった。
それは家ほどの大きさで丸く、銀色をしている。
しばらくするとその物体の一部がドアのように開き、男が降りてきた。
黒い燕尾服にステッキを持ち、ハットを被っている。表情はハットに隠れていて見えない
男、と分かったのはその体格と、ズボンを穿いていたからだった。
男は物体から降りると広場を歩いて回った。
それはまるで値踏みをするかのようだった。
「……どなた?」
ミモレットは意を決して男に声を掛けた。
男はハッとしたように振り返った。
そこでようやく男の表情が見えた。
年齢は20代後半ほど。
精悍な顔つきをしていて目には光を放っていた。
男はミモレットを見るとハットを脱いだ。
「やあ、お嬢さん。まさかこんな所にいるなんてね」
ミモレットは口を尖らせた。
「おじさま、これは夢なの? お母さまも町の人もみんないないの」
男は哀しそうに目を伏せた。
しかしそれは芝居がかっていて、わざとらしいとすら思えた。
男は一つ息を吐いた。
「みんなはもういないんだ」
ミモレットはキョトンとした。
「……いないって? どこへ行ったの?」
「みんなは死んだのさ」
ミモレットは表情を変えなかった。
「しんだ?」
男は自分の額に手を当てた。
「ああ、幼すぎて死がなにか分からないのか」
またもや芝居がかっている。
ミモレットは眉にしわを寄せた。
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