さよなら、あの優しい日々よ

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「私がいくつに見えるの? 私はそんなに幼くないわ。知っているわ。生き物は必ず死ぬって。死んだママが言っていたわ。でもどうして。どうしてみんな死んでしまったの」  男は「そういう運命だったのさ」とあやすように言った。  でも、とミモレットが喋った瞬間、ズシンと地面が揺れた。 「何、今の。まさか」  男両手を広げた。 「終わりへのカウントダウンが始まったみたいだね。お嬢さん、お名前は?」 「……ミモレット」 「そうか。私の名はロマージュ。ねえ、ミモレット。君はどうしたい?」 「どうしたいって?」 「このままだと今に君は天に輝くお星さまになってしまうということだよ」 「……それってみんなの所へ行けるという事?」  ロマージュは眉を上げた。 「恐らくは」  ミモレットは座り込んだ。 「ねえ、ロマージュさん。私の身の上話を聞いて下さる?」  ロマージュはポケットから懐中時計を取り出した。少し考えて良いだろう、と頷き広場の段差に腰かけた。 「……私が生まれた時、パパはいなかったの。ママには親戚がいなくて、女手一つでママが私を育ててくれた。けど、私が6歳の時、ママは流行病にかかって死んでしまったの。そこでブール……いえ、今のお母さまとお父さまに引き取られたの。お父さまは軍人で去年遠い地で死んでしまった。言葉遣いに厳しいお母さまは『ママ』ではなくてお母さまと呼ばないと怒るけれど、優しくて実の娘のように大切に育ててくれたわ。ねえ、私この前10歳になったの。近所のミルク配りが出来る年齢だわ。やっとお母さまに少しでも恩返しが出来ると思ったのに。私だけ生き残るなんて」  ミモレットの声は震え、顔を手で覆った。  コホン、とロマージュは咳をした。 「ミモレット。今までどんな事があろうと大切なのは今だ。君は生きる事を放棄するという事だね」  ミモレットは顔を上げ、ゆっくりと頷いた。 「ロマージュはあの乗り物で逃げる事が出来るんでしょう? 私は置いていって」  ロマージュは黙って空を見上げた。つられてミモレットも空を見上げた。散りばめられたガラスのように星が輝いてる。 「ねえロマージュ。どうして私は1人取り残されたのかしら」 「それはあちらの手違いだろうね」 「手違い?」 「本当は数時間前にはこの世界の住人には消えてもらう予定だったんだよ。それがどういうわけか君だけ取り残されてね」 「きっと、風邪で寝ていたからだわ」
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