さよなら、あの優しい日々よ

5/7
前へ
/7ページ
次へ
 ロマージュはミモレットに近づき額に手を当てた。  その手が演技に見えなくてミモレットは戸惑った。 「うん、もう熱は下がっているようだね」 「もうすぐ死んでしまうのよ。どうでもいい事だわ」  ズシンと地面がまた揺れた。  ロマージュは額から手を離し懐中時計を取り出した。  もう時間なのだ。とミモレットは悟った。 「ねえ、ロマージュは何者なの? この世界の住人じゃないでしょう」  ロマージュは難しい顔をした。 「うーん。何ていうか。……そうだな。『傍観者』かな」  ミモレットは分かったような分からないような気持ちになった。 「傍観者ならこれは知っているかしら。ねえ、この世界が無くなるとどうなるの」 「この世界が無くなっても宇宙にはそれこそ星の数ほどの世界があるんだ。そのうちのひとつが無くなっても宇宙的にはどうって事ないね」 「私たちってちっぽけな存在ね」  ミモレットは呟いた。そしてまたズシンと地面が揺れた。それと同時にゴゴゴと地鳴りがした。 「タイムリミットだ」  ロマージュは懐中時計をしまった。  地鳴りはどんどん大きくなりミモレットは大声を出した。 「最初からこうなる運命だったのかしら」 「今更聞いてどうする」 「……私たちが生きた意味ってあるのかしら」  ロマージュは押し黙り、息を吸った。 「それは君たち、または彼奴らが決める事だ」  バキバキという音がして地面が割れた。そこに大きな指が1本降りてきた。ミモレットは伏せて地面に這いつくばる。指はミモレットに近づく。そこでミモレット初めて恐怖を覚えた。指に押し潰される。すると自分は文字通りペチャンコ、いや、グチャグチャになるだろう。ワインを作るブドウのように。  指を見上げるのをやめ、頭を低くすると指はミモレットの頭をかすり家々をなぎ倒した。 取り敢えず指は遠くへ行ったようだ。ミモレットは顔を上げた。するとロマージュと目が合った。 「本当は死にたくないんだろう」  建物の倒壊でホコリまみれのミモレットと違いロマージュの服にはチリひとつついていない。  ミモレットが口を開けた瞬間、地面が揺れ地割れが起こった。  どんどん地面は割れ、割れ目はミモレットの方へ伸びて行く。ミモレットは動けずにいた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加