さよなら、あの優しい日々よ

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 このままでは地割れにのみ込まれる。  開いた地面はまるで地獄への入り口のようだった。  地割れにのみ込まれるのが先か指に押し潰されるのが先か。  お母さま。  ミモレットは心の中で叫んだ。  地割れはどんどん近づいてくる。 「愛しているわよ」  ふいにブールの最期の言葉をミモレットは思い出した。  そのコンマ1秒にも満たない時間で思い出した母の記憶。 「……たくない。死にたくないわ!」  ミモレットは声を張り上げた。  視界の端に見えるロマージュは口の端を上げた。けれどもそれは一瞬のことだった。  地割れはミモレットのすぐ側を通り、近くの商店真下へ行った。すると指は家ごと地面を割り天へと昇った。  しばらくすると辺りは静かになった。  周りの建物は殆どが倒壊していた。その中でミモレットは震えていた。それが恐怖からなのか取り敢えず助かった安堵からなのか分からなかった。  気づくとロマージュが目の前にいた。 「生きるのだね」 「自ら死ぬ事を選択したら天国で再開する時にお母さまに怒られてしまうわ」  ロマージュは、うむ、と言った。 「君は生死の境を前にして生を選んだ。この世界が滅ぶ運命は変えられないがこう知り合ったのも何かの縁。どうだい。私の助手をしないかい」 「助手?」 「助手になればいろんな世界へ行く事ができる。花畑の世界、一面海の世界、見たことのない生物のいる世界」 「もしも嫌だと言ったら?」  ロマージュは指を1本上へ上げた。 「彼奴らに喰われる運命」  ミモレットは自分の手をギュッと握った。  瞳は潤み口は真一文字に結ばれた。  遠くの方で建物が倒壊する音がした。また彼奴らがやってきたのだ。  ミモレットはロマージュを真っ直ぐに見た。 「行くわ。……この世界にさよならしなくちゃいけないわね」 「ではお嬢さん」  ロマージュは優雅に手を差し出した。  ミモレットは躊躇うこと無く手を取った。  そして2人はロマージュが乗っていた乗り物に乗り込む。  中は大きなひと部屋といったようなものだった。そしてほとんど物が無かった。あるのは机や椅子、キッチンだけでどれも無機質で生活感がなかった。  壁は外から見たら銀色なのに内側から見たらガラス張りになっていた。そのおかげで外がよく見えた。  ロマージュは運転席に座るといくつかのレバーを引いたり何かを押した。
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