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雨の日
僕は、雨が嫌いだ。
この表現は、間違っていないが、合っているわけではない。
正確に言うのなら、雨が降っているときに、差して一人で歩くのが嫌いだ。傘を差さないで移動することは、別に嫌いでもない。むしろ好きだと言える。雨に濡れながら歩くことで、思い出も、過去も、積み重なった想いも、全て流してくれる・・・そんな感じがする。
雨の日は、僕の心の中にある、蓋さえも溶かしてしまう。
思い出したくもない。でも、忘れたくない。そんな、蓋をしてしまい込んだ思い出を・・・。
そう、あれは、僕が初めて人を好きになった瞬間でもある。今から、何年前かも思い出せない。古い話のようで、つい昨日のようにさえも思えてしまう。覚えているのは、強烈に刷り込まれたイメージだけだ。
雨の中、小さな赤い傘をさして、僕を見て微笑む少女の顔を・・・。
そこは、寂れた港町。港といっても、漁船が停泊しているだけの港で、これといった名産があるわけでもなく、寂れた港町で、港を出ればすぐに山という特殊な地形に囲まれている場所である。そんな地域に、私は住んでいた。
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