目が覚めると

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「落ち着きなよ」 溜息をついた田中は淡々と話し始めた。 「知らぬ間に死んで幽霊になったとか、発想がファンタジー過ぎ。それよりはまだ幽体離脱の可能性の方が高い」 「幽体離脱?」 「そ。私達は今幽霊じゃなくて幽体なの」 真面目な顔して何言ってんのこいつ、と思ったけど、田中はオカルトや怖い話が好きで休み時間もそういった類いの本を読んでいる。詳しい人がそう言うんだから、そうしておこう。 「私達は今肉体が生きたまま、意識だけが体から抜け出ているの。幽体離脱のきっかけは人によって様々で、何の前触れもなく突然起こる事もあれば、過呼吸や手術の麻酔が切れた時に起こる場合もあるんだって。脳の誤作動だって言う人もいるけど、魂だけが抜け出るの、私はありえると思ってる」 「…へーえ」 魂だけが抜け出る、か。急に死んだっていうのよりは確かに現実味があるし、死んでないなら一安心だ。 「どうやって戻るの?」 「…さあ?」 耳を疑いながら隣を見た。 「え、戻り方わかんないの?」 「逆になんで私なら知ってるって思ったの」 田中は涼しい顔で浮かんでいる。「は?最悪。元に戻れなかったら死んでるのとほとんど変わんないじゃん!」 あたしは腹筋に力を入れ、ぐいっと上体を乗り出す。上半身だけが漂ってるような形だけど、力む感覚が生じた。けど、今いる天井付近からどうしても下がれない。 「ん~~~っ、ああもう、なんでよ!」 腕を振り回して体のある位置まで降りようとするも、重心がつっかえたように留まったままだ。鞄を枕代わりに机に伏せ、左横を向いた自分の寝顔が腹立たしくなってくる。何呑気に寝てんのよ! 暴れつつ何度も試みていると、ふは、と隣から笑い声がした。 「え、何」 田中だった。それ以外誰もいないから当たり前だけど、意外に感じて動きを止める。
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