12.見えない心

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イギリスからのお客様は、日本の華族や資産家との取引を望んでいるとのことだった。 かねてより依頼をしていた通訳が体調を崩してしまい、別の通訳を急遽探していたタイミングで、 由緒正しき久我家の紹介ということもあり、経験の無い千歳にお鉢が回ってきたのだ。 あぁ、緊張する。 麗斗、いや、久我家の顔に泥は濡れない。 明後日と迫ったパーティの為に、千歳は、想定される会話に備えて必死で準備をしていた。 本や資料を読み耽る中で、 出席者の名簿の一点で目が止まる。 近衛 華 そして、八神 志恩 華というのは、近衛家の娘だろうか。 一緒に来るという事は、何か、特別な・・・ ぐ、と胸が苦しくなる。 ピタリと止まった手を、ぐいと動かして、また文字に添わせていく。 でも、今私がすべき事は実績を作ること。会いたくないという気持ちだけで、絶対に断れないし、断りたくない。 千歳は、麗斗が声をかけるまで、 食事を取ることも忘れて机へ向かった。
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