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志恩が言葉を発した後、
千歳の目が感情を失い、静かに逸らされたのを見た。
あぁ、だめだ・・・
それを見て、自分の心が死んでいくのが分かる。
優しい言葉一つかけられないなんて。
華がぐいぐいと引っ張るが、その場から動けない。
千歳とイギリス人夫婦が去ったあと、
射殺しそうな眼光でこちらを見ていた麗斗が言った。
「あんた、最低だな。」
言い返す言葉も無い。
黙ったままの志恩に、麗斗はチッと舌打ちをしたあと、
ぼそりと言った。
「もしかしたら、勘違い、してんのかもしれないけど、」
「千歳が俺に連絡した訳じゃない。」
俺が勝手に動いただけだから。
それだけ言うと、麗斗はその場を去っていった。
麗斗は自分が以前感じたのと同じ種類の、
俺の嫉妬に気付いたんだろう。
情けない。
・・・でも。
これで、良かった。
自分に言い聞かせる。
お互いの気持ちが無いと思われていないと、動けない。
志恩は顔を上げると、不満そうに見上げる華に、
優しく笑いかけた。
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