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無心で歩いていたのだろう、気づくと普段来ない辺りまで来てしまっていた。
まずい、この近くには・・・
「よぉ。」
パッと振り返ると、麗斗がすぐ後ろに立っていた。
「お前、この辺りに近付かないようにしてたんじゃなかったっけ。」
しかも、放心状態だったぞ。
ニヤけながら言う麗斗に、冷たく、何か用、と言う。
麗斗は少し黙り、目を逸らした。
「・・・こないだ。どうだったんだよ」
「どうって?」
「鹿鳴館の夜会で。めぼしい相手、いたのか」
またか。家の中でも外でもこの話題。うんざりする。
「知らないわ」
「知らないって。お前のことだろ」
「知らない。父が誰に断られたのかも、次に誰を狙っているのかも。
うちが経済的に追い込まれているのは、もうどこも知ってる話でしょ。それを知って、私と結婚しようかななんて人、いる訳ないじゃない。」
私が男でも、絶対貰わない。
そう言って橋の欄干に手を置く。
麗斗は、そうか、とポツリと言い、
「お前、黙ってたら誰かお飾りにもらってくれるんじゃないか」
そう言って私を見下げてくる。
冷たくて綺麗な目。
いつもこいつはこういう目で私を見る。
突き放すような、縋り付くような目で私を見てくる。
今にも抱き締められそうだと思うこともあれば、
くるりと踵を返して二度とこちらを向かないような気もする。
吸い込まれそうに見つめ合う。
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