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八神志恩は、骨董品に囲まれた洋風の居間で、
秘書の高倉と話していた。
志恩の会社は、貿易商として西洋の珍しい品々を輸入すると共に、日本の生糸や茶などを輸出することで財を成してきた。
今も業績は伸び続けているが、何も問題が無いわけではない。
あの愚かな華族共、あいつらは喜んで西洋の品々を買い求める割に、家柄の無い成金を下に見、
成金から買うものかと、愚かにも外国の商人から商品を買い付ける。
ただでさえ輸出は外国商人にまだまだ独占されている状態だ。
このどちらもを切り崩さなければ、いずれこの商売にも終わりが来てしまう。
「もう一歩、華族にも、西洋人にも踏み込む足がかりが欲しいんだよな」
秘書の高倉は、イギリスへの留学時代に出会った。
同じく商人の家の出ながら、頭のキレる男で、
本来はこの男が代表を努めてもいいだろう。
祖母がイギリス人である志恩の方が西洋人に取り入りやすいという理由だけで、今は代表をしているに過ぎない。
「定番は、政略結婚だな。名のある華族と婚姻関係になれば、その家の繋がりは潰していける。」
「実際に利用すれば、うちの方が安く、良品を手に入れられると気付くはずだ」
完璧に全ての家を、は無理だが、きっかけにはなるだろう。
考えながらそう言うが、悩ましい点もある。
この間の夜会も、その相手を見つけるのが目的だったが、
女学校で裁縫や音楽に力を入れ、英語や経済には見向きもしてこなかったような女たちに興味はない。
彼女たちに罪はないのだろうが、そのような男女別の教育しかしていない日本にほとほと呆れる。
苦労を知らないお嬢様をもらってもな。
邪魔になるだけだ。
どこかに、いないだろうか。
由緒正しく、国内でも、海外でも交渉のきっかけに出来る女。
海外では、男尊女卑から抜け出せないはずの日本人が女性をパートナーを連れているだけで、一歩進んだ会話が出来る。
夜会で出会った女たちが求めるような、愛や家庭生活は与えられない。与える気はない。
貪欲に、知識を吸収し共に闘える女。
愛を与えられることは無いと、理解している女。
いるわけ無いか。
はぁ、と二人揃ってため息をついた。
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