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相変わらず芝居には興味が持てなかった。
考えてみれば、心が動くはずは無いのだ。
そんな物は、とうに捨ててしまったのだから。
それでも楽しんでいる振りはしなければならない。
いつものことだが、帰る頃にはもうすっかりくたびれ果てていた。
芝居茶屋で手配した舟に乗り、日本橋川から大川へ出る。
気疲れしたせいか川風に当たったせいか、和恵は軽い頭痛を覚えていたが、両側から二人の娘たちがひっきりなしに話しかけてくる。
実母を去年亡くしたばかりでやって来た若い継母のことを、娘達はおっかさんとは呼ばないが、それはさておき、和恵が来てから頻繁に芝居見物などに連れ出してもらえるようになった二人はご機嫌で、また、疎い和恵に得意になって我先にとあれこれ教えるのも楽しみの一つであるらしかった。
何も知らない者が見れば、姉妹のようにも映ったかも知れない。
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