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 蔵前で舟を下りた途端、ジャンジャンと打ち鳴らされる半鐘の音に出迎えられた。  しかも、火元が近いことをあらわす擦り半で、きな臭いにおいまでもが漂ってくる。  どうやら風向きも良くないようだと青ざめた金兵衛は、娘二人を女中に任せて駆け出して行き、和恵もなんとなく後を追った。 「何と言うことだ……」  盛大に炎を上げて燃えさかっているのは隣の家だが、火の手は既に板倉屋にもかかっており食い止めようは無い。 「だっ、旦那様……」  青ざめた顔で大番頭が、駆け寄ってくる。 「蔵はどうした! 証文は持ち出せたのか?!」 「蔵は三番蔵まで全て、目塗りが済んでございます。店の証文や金目の品もあらかた穴蔵へ……」 「そ、そうか。よくやった」
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