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 読経が続いている。 「まったくねえ。まさか生さぬ仲の息子さんを助けるために、火の中に飛び込んで行きなさるとはね」 「さすがはお武家の出だ。ご立派な心がけでしたよ」 「それにしても。こんなことと知っていれば、あたら命を落とすこともございませんでしたでしょうに……」  何のことやら分からずに、無邪気に首を傾げる初太郎の脇で、初太郎の乳母が身を縮めている。  誰もが右往左往している所へ、初太郎を抱き、真っ青になって現れた乳母が泣きながら白状したところによると、あの日の初太郎の腹痛は、仮病であった。  芝居など、幼すぎる初太郎には退屈以外の何物でも無い。  それを察して乳母は、一家の留守に、生母のおれんの元へ初太郎を連れて行き、遊ばせていたのだ。  金兵衛は、おれんの伝法な物言いや振る舞いは、板倉屋の後取りに相応しくないと初太郎を取り上げてしまい、近くにいながら滅多に会うことの叶わぬ母子だったのだ。  結果的に言えば、和恵が初太郎を救ったわけでは無いが、町の者達は皆、和恵のことを賞賛し、またおれん、初太郎母子に対する酷い仕打ちが原因の一端であると、おれんや乳母には同情を示し、板倉屋金兵衛はひどく株を落とした。
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