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 本当のことは、誰も知らない。  燃えさかる炎の中、和恵が真っ直ぐに向かったのは、離れの遊び部屋でもなければ母屋の初太郎の部屋でもなく、自分の部屋だった。  捨てなければと、幾度も幾度も思った。  思いながら、とうとう捨てられないまま、今日まできてしまった。  それは、ただの押し花に過ぎず、誰に見られた所で不都合は無い。  それでも和恵は、幾度かそれを捨てようとした。  嫁ぐからには、このような思い出の品など所持しているべきではない。  いいえ、嫁ぐこと自体が裏切りで、私にはもはやこれを手にする資格など無いのだと。
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