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 今生の別れ――!  分かり切ってたことだが、その言葉に和恵は、胸をつかれた。  修二郎は母親とのことを言ったのであろうと和恵は思ったが、それは自分にとっても同様なのだ。  立ち去りかね、かと言ってうまい言葉は思いつかず、いたたまれない気持ちで和恵は、石にでもなったかのようにその場に立ち尽くしていた。  修二郎もまた常とは異なり、思いを残すかのようにぐずぐずとその場に留まっている。 「あの……」  思い切って和恵は、口を開いた。 「おねだりしてもよろしいかしら」 「……なんです?」 「お庭の桜を一枝……。今年も美しく咲いています。床の間に活けたいわ」  隣家の桜は、薄紅の花弁の先端がまるで紅でも差したかのように濃い紅を帯びるのだ。 「待って下さい」  修二郎はすぐに数本の枝を折り取って塀越しに差し出してくれ、和恵は背伸びをし、手を伸ばしてそれを受け取った。  一瞬、手と手が触れあう。  動揺を押し隠して和恵は頭を下げた。 「ありがとうございます。あちらへ行かれましても御身健やかに」 「和恵殿も」  塀の向こう側でも頭を下げる気配があった。  それから――  遠ざかっていく足音を聞きながら、和恵は桜の枝を抱きしめた。  花は活けても、すぐに色褪せ散ってしまう。  和恵は、一輪一輪、丁寧に押し花にし、墨で枝を描いた紙に貼り付けて、大切に針箱の底へとしまい込んだ。
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