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捨てなければと、幾度も幾度も思いながら……
いいえ、決して捨てることなど出来なかった。
捨てるつもりなど、本当は微塵も無かった。
だって、これだけが私の――!
失いたくない。
長い間灰に埋もれていた埋み火が熱を帯び、燃え上がった瞬間だった。
失うくらいならば、いっそ共に……
心を捨てることなど、出来はしなかった。
炎の中で和恵は、たった一度きりの、淡く儚い思い出を胸に抱きながら、この家に来てはじめて声を上げて泣き、そして笑った。
和恵はこの日、心を取り戻し、そして、命を捨てたのである。
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