2/2
前へ
/18ページ
次へ
 蔵前の札差、板倉屋金兵衛は、新しく迎えた二十も年下の若女房をひけらかすかのように、不相応なほどに着飾らせた和恵を連れて、今日は芝居見物、今日は寺参りと、毎日のようにそこここへと連れ歩く。  貧乏暮らしで化粧気も無く面やつれしていた頃とは異なり、既に年増と言われる二十三とはとても思えぬ美しさ、初々しさであるとは言え、小娘でもあるまいに日々取っ替え引っ替え(あで)やかな着物を着せて連れ回すなどはやはり常軌を逸しており、たちまち町中の評判となった。  好奇の視線にさらされて、普通ならば恥ずかしくて顔も上げられぬという所だろうに、和恵は目の下に(ほの)かな笑みを漂わせ、楚々として金兵衛に付き従う。  その微笑みは、ひたすら貞淑で従順な妻の面であり、そこに心は無かった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加