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二
和恵の実家、小松家は禄高僅か百五十石。
一応旗本に列せられてはいるものの代々無役の小普請組で、元々暮らしに余裕など無かったが、元々蒲柳の質であった母が病に倒れ、長患いの末に儚くなったのが八年前。
その薬礼が嵩んだのを皮切りに、それ以降めっきり心の弱った父もやがて患い付いて、この春とうとういけなくなった。
この時点で既に、借金の額は相当に膨れあがっていたのだが、弟が家督をし、その広めをするだけでも、またかなりの費えとなる筈だった。
父が死んで唯ぼんやりとしていれば自ずから跡が継げるというものではない。
既に元服を済ませた歴とした嫡男があるとは言えども、しかるべくお届けをし、諸方へ挨拶をして回らなければならないし、挨拶に伺うのに手ぶらという法は無い。
※小普請組……無役で三千石以下の者は、まとめて小普請組に編入される。実際に普請をするわけでは無く、無役ということは働かずに家禄を頂戴しているということになるので、その代償として禄高に応じて小普請金を上納することになっており、手取りは禄高より少なくなるわけです。
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