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「でも」  と。金兵衛は、舌なめずりをするように言った。 「あなたのお考え一つで、考えようはあるんですよ」 「どういうことです」  問い返した和恵は、すぐに激しく後悔をした。  怒りで頭の中が真っ白になった。  後添いにならぬかと言うのである。  武家と町人との縁組みは本来、どんな下級武士とであっても身分違いであるが、商人達の中には、ある程度の財を成すと今度は身分というものに憧れを抱くようになり、金で同心株を買ったり、娘を武家奉公をさせて、あわよくば殿のお手付きとなって側室に、やがては自分の血を引く孫が跡取りにと願ったり、あるいは武家の女を妻に迎えたりということをはじめる者が少なからずいる。  実際には金が物を言う世の中であり、やりようはいくらでもあるのだ。  親戚ということになれば、金を融通するのに不都合は無い。何だったら、これまでの借金を全て棒引きにしてもよい――  金兵衛は既に四十を越しており、十四を筆頭に既に三人の子があって、去年先妻を亡くしたばかりと聞いていた。おまけに、他にも本妻の存命中から囲っている女までいるというもっぱらの評判であった。
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