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 こんな和恵にも、今日まで思い人がなかったわけでは無い。  隣家である八木家の次男、修二郎は、和恵の三つ年上で、もちろんみだりがましいことなど何一つありはしなかったが、そこは隣家で、道で行き会うことも度々あったし、時には庭先で塀越しに二言三言、話をすることもあって、好もしい御方と感じていたものだった。  最たるは、和恵の母が儚くなった時のことだろう。  父は共に逝ってしまいそうな勢いの半病人と化し、嫡子たる弟も、まだ十に満たない頑是なさで、和恵とてたった十五の小娘に過ぎなかったのに、泣くこともならず唯一人黙々と弔いの支度から客あしらいまでをこなさねばならなかった。  見かねた八木家の妻女が修二郎を引き連れて手伝いに駆け付けて来てくれ、何とか滞りなく葬儀を済ますことが出来たのである。  兄弟と言って幼い弟一人しかいない和恵にとって、こんなにも間近く若い男が側にいて、共に働くなどはじめてのことであったし、この時の修二郎の言葉や態度は、和恵に対する思いやりで溢れていた。
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