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榊の胸に顔を埋める。さらにきつく抱きしめられて、目黒は目を閉じる。男のぬくもりと匂いを確かめるようにしてから、そっと体を離した。
「いままで、本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「こちらこそ、いろいろありがとう。私にできることがあったら、なんでも相談してください。でも、航介はもう大丈夫ですよ」
榊の言葉を聞いて、目黒はさらに嗚咽を漏らす。あとからあとからこぼれてくる涙を止められず、頭にかけていたタオルで拭う。
雷はいつしか遠ざかっていた。電気はまだ復旧しない。ブレーカーの様子を確かめた方がいいかもしれないと思ったが、立ち上がる気にはなれなかった。
雨はまだ降り続いている。
暗闇の中で雨音に耳を澄ませながら、榊もまた小さく鼻を啜った。
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