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karte4. 蓬莱周の入院
連れてこられた男は無言だった。
「はじめまして、蓬莱周さん。院長の榊と申します」
クリニック待合室の飴色のドアを開けると、住居スペースに繋がる廊下が広がっている。突き当たりを左に曲がり、細くて急な階段を降りると地下室へ行きつく。
「蓬莱さん。自分がなにをしたかはわかっていますね」
男の返事はない。煙草の匂いが染みついた皺だらけのシャツはボタンの上三つまで開かれて、裾はだらしなくズボンからはみ出ている。太く骨ばった指で無精ひげを掻き毟りながら、大きなあくびを漏らした。
八畳ほどの地下屋は作りつけのクローゼットにベッドとテーブルと椅子があるだけで、ひどく殺風景だった。昨夜から除湿機をフル稼働させていたのでカビ臭さはだいぶ薄まったが、換気扇は低くうなりをあげている。
「今日はこのまま入院していただきます。食事はあとでお持ちしますから」
地下室の入り口に突っ立っていた蓬莱は、榊の白衣姿を値踏みするように眺めて鼻を鳴らした。
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