Sleep

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目が醒めると、天井があった。白色で、ずっと見ていると模様がついている事に気付く。笑った口みたいな模様が何個もついている。少し視線を下げると海洋生物がついたカレンダー、灰色の時計が壁に掛かっているのが見える。 そして、昨日、一昨日着ていた服、もしくはもっと前に着ていたと思われる服達がベッドの上に散乱していた。どうやら私はまた床で眠ってしまったらしい。 台所の洗っていない食器達、無造作に置かれた果物や菓子類。どう見たって相変わらずいつもの部屋の風景だった。 目醒めると私はいつも思う。失敗した、と。何に失敗したのか、自分でもよく分からない。ただ、また失敗したんだなと思うのだ。私は眠りから醒めたくないのだ。私にとっては、夢の中の方が余程クリアで現実的なのだ。 ぼんやりした頭を抱えながらのろのろと歩く。昼間の2時だった。仕事は夜からなのでこの時間に起きても何も問題はない。そもそも、時間感覚など、とうの昔に失ったのだ。 タバコに火をつけ、ベランダへ行く。何も食べなくても平気だった。ただ、以前何日もろくに食べずに過ごしていたら、意思と反してぶっ倒れたことがある。気が付いたら病院にいた。同僚とか、数少ない友人達が見舞いに来てくれて色々と世話を焼いてくれた。 かなり迷惑をかけたので、それ以来食べるようにしている。と言っても、ほとんど果物しか食べないのだけど。 志歩の日課は夜から始まる。夜、仕事へ出掛け、朝に帰ってくる。そして眠る。午後に目醒め、ベランダでタバコを吸う。これで1日が完成する。 勤務先は渋谷のキャバクラ店であり、何人か固定の客もついている。 志歩は今年34歳になるのだが、店では28歳という事で通している。なぜ年齢を偽らねばならないのか、最初のうちは釈然としない気持ちになることもあったが、毎月黙ってても勝手にお金が入ってくるのでどうでも良くなった。 時間をやり過ごせて、お金が手に入るなら何だっていいのだ。それくらい、志歩はこの世に何も望んでいないし、無為無欲なのであった。  
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