(一話完結)

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男が不敵に笑う。銃を上げ、顔はそっぽを向く。まさか、そのまま撃つのか、と思った。適当に撃たれたら、むしろ当たるかもしれない、と思った。銃口はゆらゆらと揺れていた。指先に力の入るのが見える。やめてくれと思ったが、喉が渇いて、声は出なかった。パンッと音が響く。痛くなかった。最初と同じような音がしたから、またグリルに当たったのだろう。 六発拳銃なら残りは一発のはずだった。そしてその一発が俺の頭を貫くに違いない。 今度はきっちりと俺の眉間に照準を合わせていた。銃は一ミリもぶれない。今度こそ終わりだろう。 そんなときだった。車を囲んでいた部下どもの群れが波が引くように離れて行く。別の男の群れが、その隙間に入り込んでくる。いくつもの拳銃があの男に向けられている。一人がドアを開け、俺を(かば)うかのように前にかぶさってくる。そのまま車から引き出され、今度は後から来た男たちに囲まれる。どうやら、生きたまま助かったのだ。ふと顔を上げると、俺を見捨てた刑事が何食わぬ顔をして、俺よりも安全そうなポジションにいた。〝おい、お前のせいだぞ〟と思ったが、やっぱり声は出なかった。 会長以下、組員たちは刑事たちに連行されて行った。 気がつくと、俺はひとり、そこに取り残されていた。 (了)  
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