0人が本棚に入れています
本棚に追加
男が不敵に笑う。銃を上げ、顔はそっぽを向く。まさか、そのまま撃つのか、と思った。適当に撃たれたら、むしろ当たるかもしれない、と思った。銃口はゆらゆらと揺れていた。指先に力の入るのが見える。やめてくれと思ったが、喉が渇いて、声は出なかった。パンッと音が響く。痛くなかった。最初と同じような音がしたから、またグリルに当たったのだろう。
六発拳銃なら残りは一発のはずだった。そしてその一発が俺の頭を貫くに違いない。
今度はきっちりと俺の眉間に照準を合わせていた。銃は一ミリもぶれない。今度こそ終わりだろう。
そんなときだった。車を囲んでいた部下どもの群れが波が引くように離れて行く。別の男の群れが、その隙間に入り込んでくる。いくつもの拳銃があの男に向けられている。一人がドアを開け、俺を庇うかのように前にかぶさってくる。そのまま車から引き出され、今度は後から来た男たちに囲まれる。どうやら、生きたまま助かったのだ。ふと顔を上げると、俺を見捨てた刑事が何食わぬ顔をして、俺よりも安全そうなポジションにいた。〝おい、お前のせいだぞ〟と思ったが、やっぱり声は出なかった。
会長以下、組員たちは刑事たちに連行されて行った。
気がつくと、俺はひとり、そこに取り残されていた。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!