0人が本棚に入れています
本棚に追加
男の顔が真剣になったと同時に、銃口がわずかに揺れ、甲高い音がする。撃たれたと思ったのに、どこも痛くなかった。狙い定めていたはずの銃身が微妙に動いたのは分かっていたのに、男の視線は俺をとらえたままだったから、自分が撃たれたかと思ったのだ。なんとも奇妙な感覚だった。弾は車のフロントグリルかどこかに当たったらしい。安堵すると同時に、恐怖は一気に高まった。恐ろしさから、思わず脚をシートの上に抱え上げた。いまさら遅いが、弾が突き抜けてくるような気がしたのだ。
肉体派の側近は天を仰いで笑っていた。頭脳派は何事もなかったような顔だ。いつものやり方なのかもしれない。
俺はまだ男を見続けていた。というよりも目を逸らすことさえできなかったのだ。せめて自分が死ぬ直前に、そのことを認識してから死にたかったのかもしれない。
ふっと男の手が動いたかと思ったら、次の弾が放たれた。すぐ目の前の左側のフェンダーミラーが吹き飛んだ。ビビっている間もなく、もう一発。銃口は間違いなくこっちを向いていたから、今度こそ駄目かと思ったら、弾はフロントウィンドウと屋根の継ぎ目に当たったらしい。その周囲のガラスに少しだけ細かいヒビが入った。まっすぐに線を下せば、そこは俺の頭だ。相当な腕のようだった。奴は俺を精神的に嬲りながら殺すつもりらしい。
いつの間にか男の部下たちが車を取り囲んでいた。何人かは拳銃を手にしており、興奮しながら口々に何か叫んでいた。ウィンドウをがんがん叩く奴もいた。たぶん、俺が殺されるのを早く見たいのだろう。「俺が代わりにぶち込みましょうか!」とか言っているに違いない。すぐそこなのになぜか声は耳に届かない。
最初のコメントを投稿しよう!