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9話 ここにいます
「ホント、最近出勤するのが楽しみでしょうがないのよ。
詩音くんの顔見るだけで癒されるのよねー」
「そうそう。205号室の飯田さん、あんな頑固者で偏屈でニコリともしないのに
詩音くんと話すときにだけ笑ってるの。感動しちゃったわー」
「見た目もそうだけど、天使よね。あの子」
夕方のナースステーションはいつも詩音の話題になる。
すっかり元気になった詩音は誰にでも人懐こい笑顔を見せ、たどたどしい言葉ながらも入院で退屈している患者達の話し相手になっているらしく、今や病院スタッフだけでなく患者にも可愛がられるようになっていた。
病棟に詩音の姿がある。
その光景が当たり前のようになりつつある雰囲気になり始めていた。
だがしかし。
「でも、明後日退院しちゃうんですよね」
話が弾む中、思い出したように誰かが言ったその一言で
一瞬にしてナースステーションの中が空気が重くなる。
彼をここに運んでから明日で3週間になる。
結局身元が判明するような情報を聞き出すこともできず、
警察も児童相談所も身元を特定することができないままだったが
体力も十分回復し、怪我も完治して詩音がここに入院している理由がなくなった。
明後日、とりあえず空きのある近くの児童保護施設に保護した後
引き続き身元確認をしつつ、詩音に合った児童福祉施設へと移ることになると
決定したと連絡があったのは2日前のこと。
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