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プロローグ
「院長は助かるって言ったんだ!
だから、息子は手術することを選んだ。
アンタが失敗したせいで息子は死んだんだ!」
午後の明るい病棟の廊下に、中年男性の罵声が響き
面会に訪れた人たちが一斉に振り向く。
「ですから、成功率はかなり低いという説明はあったでしょう。
それに、開腹してみなければわからない場所に転移があった。
手の施しようがなくそのまま閉じた。
無理に切除しても結果は変わらなかった。
それが現実です。これ以上でもこれ以下でもありません」
「それでも何か手はあったはずだ!医者だろ?患者をどんなことしても
助けるのがアンタ達の仕事だろ?!」
「もう十分な説明はしたはずです。
これ以上私には説明する義務もありません。失礼します」
これ以上取り合っても意味はない。
騒ぎを聞きつけた看護師や他の若い医師が対処し始めたのを見て踵を返す。
その男を無視して廊下を歩きだした私の背中に
「待て!この人殺し!このままで済むと思うなよ!」
身勝手な罵声が飛んだ。
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