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「うえーん、うわぁーん」
病室に入った途端、まるで幼児が泣いているような泣き声が
ダイレクトに耳に響いてきてウンザリしつつ、ベッドの方に視線を向けると
明るい部屋の中央のベッドの上、ペタリと座った状態で
大粒の涙を溢しながら感情のままに泣いている少年の姿が目に入る。
「ホラ、もう泣かないで。どっか痛いなら言ってね」
「いたく、ないもん、ひっく、ちがう、もん、うえーん」
あまりの煩さに看護師も少年も私が訪室したことに気付いていないらしい。
「じゃあどうして泣いてるのかな?」
「まほう、いない、どこ、うわーん」
「魔法ってなに?」
「うわーん、いない、やだー」
「ホラ、お昼ご飯あるよ。看護師さんと食べよっか」
「やだー、いらないもん、ああーん」
苦手なこの状況に、どう口を挟もうかと考えあぐねながら
目の前の光景とやり取りを聞いていて、また何となく違和感を感じた。
さっき廊下で子供の泣き声を聞いた時と同じ違和感。
どこかちぐはぐな感じがするが、はっきりと何がおかしいのかはわからないままに
「何を騒いでいるんだ」
覚悟を決めて声を掛けた。
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