プロローグ

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こんなことは慣れている。 人間とは自分勝手なものだ。 縋るときは無遠慮に縋っておいて 少しでも望みと違う結末を迎えると、医師に責任を押し付けたがる。 信じています、先生。 そう言った同じ口で、簡単に人殺しと罵る。 医者は神でも魔法使いでもない。 目の前の患者に、ただ真摯に向き合い全力を尽くす。 その結果が「死」であったとしても、どうしようもできない。 医者という仕事に就いて20年近く経つが、私は患者から罵倒されるような 無様な治療も診療もしたことなどない。 理不尽な要求に耳を傾けて居られるほど 終わった治療について義務付けられた説明以上のことをできるほど暇ではない。 そんなくだらないことに時間を費やする程無駄な時間はない。 こうしている間にも、次の仕事が山積みになっているいうのに。 苛立ちに歩幅を大きく廊下を歩いていると 「ひと言、『お力になれなくて申し訳ありませんでした』って言って  頭下げれば終わる話しだと思うけどな。  頭下げることが一番嫌いな三上先生には無理難題かな」 背後から聞き覚えのある声に言われた。
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