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「岩見」
足を止め、振り返る前に隣に並んだのは
弁護士の岩見雅也だった。
岩見とは高校時代からの知り合いで、私の医院と岩見の弁護士事務所が偶然にも
2軒隣だということで、わずかながら未だに付き合いがある。
とはいえ、何かと絡んで来るのは専ら岩見の方からだが。
「相変わらずニコリともしないねー。天才外科医三上先生」
「何しに来た」
「仕事だよ、仕事。弁護士も医者と同じくらい忙しいんだよー」
「貴様に頼るなんて、この病院も堕ちたものだな」
「あー、そんな事言っていいのかなー、三上先生。
俺の勘だが、近々三上先生も俺に頼らなきゃなんないような気がするんだけど」
「……」
「今の罵声オヤジ、患者の父親だろ?亡くなったのか?」
「ああ。息子が末期癌で、開腹したが手の施しようがなかった」
「へー。そりゃ気の毒だな」
「気の毒だが、八つ当たりされる筋合いはない。事前に説明はした」
「どっちの気持ちもわからんでもないが
相手は息子を亡くしたんだろ?頭下げといた方が」
「私は頭を下げるような治療はしてはいない」
苛立ちにわざと歩を速めると
「はいはい。後で俺に泣きつくようなことにならんようになー」
着いてくることを止めたらしい岩見は私の背中にそう言った。
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