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「……寂しいですよね」
「うん、絶対寂しい」
寂しいものか。
患者が元気になて退院していくのは喜ばしいことだ。
それが例え帰る場所のない子供であっても。
病院とはそういう場所だ。
パソコンに向かい、患者の検査結果に目を通しながら耳に入って来る看護師たちの言葉に脳内で反論していると
「だよねー。てか一番寂しいって泣いちゃうの、三上だったりして」
この場に相応しくない茶化すような男の声が届く。
「ちょっと岩見先生、またそんな茶化すようなこと言って。
て、いつの間に来られてたんですか」
「でもそう思いません?絶対三上が一番泣く!」
「……ですね」
「だけど三上先生の泣き顔って想像できないけど……確実萌える」
「それは間違いないわね」
「俺も三上とは長い付き合いだけど、笑う顔も泣き顔も見たことないなー。
一回見てみたい」
好き勝手な会話に苛立ちを感じたが、敢えて口を挟まず
パソコンに目を向けたまま仕事を続けていると
「いわみせんせぇ、みかみせんせぇはどうしてなきますか?」
お手伝いだと言って看護師と一緒に夕食前のおしぼりを配っていた詩音が、看護師と共に戻って来て岩見に尋ねた。
「詩音がいなくなったら毎日寂しくてみんな泣いちゃうって。
ここにいるみんな、詩音のことが可愛くて大好きだからね。
その中でも三上先生が一番寂しくて泣いちゃうんだって」
また、岩見は勝手な事を。
視線はそのままに小さくため息をつくと
「せんせぇ、なきません。ぼくずっといっしょいます。
いなくならないからせんせぇなきません」
詩音の不可解な返答が飛んできて
それまで賑やかだったナースステーションの中に一瞬妙な沈黙が流れる。
「……おい、三上」
困惑した岩見の声。
しんと静まった中、私はもう一度小さくため息をついた。
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