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1話 寒い夜
その日の午後。
週に一度の大学病院での勤務を終え
夕方自宅へと車を走らせた。
10月に入ったばかりとは言え、季節は確実に冬に向かっていて
まだ18時を回ったばかりの今でも辺はすっかり暗くなり何となく気持ちが逸る。
早く帰ったところで誰が待っているわけでもないし、三上クリニック内には
現在10名程の入院患者がいるが、特に急変するような患者もいないのに
日が落ちると、何故かそわそわしてしまうのは何故なのだろうといつも不思議に思う。
駐車場に車を停め、自宅ではなくいつものように隣接するクリニックへと
様子を聞きに向かう。
大通りから一つ奥の路地に入った、住宅街の中にある病院の前の道は街灯も少なく、暗くなれば人通りも殆どない。
その中に『三上クリニック』の看板の明かりと2軒向こうの『岩見法律事務所』も看板の明かりだけがやたらに明るく光っている。
……岩見の看板、端が欠けていると何度も言っているのに
まだ放置したままなのか。全く。
以前から僅かではあるが、岩見法律事務所の看板の端が欠けていることを
指摘しているというのに、当の岩見は全く気にしていないようで
一向に修理しない。
本当にだらしがない奴だ。
よくあれで弁護士など務まるものだな。
呆れつつ看板を見ていると、
看板の横の電柱の下、植え込みの木と木の間の隙間の辺り
視界の端で何かがもぞりと動いたような気がした。
ーーーー何だあれは。
蛍光灯の切れた電柱の下、暗く視界の悪い中に
白い棒状のものが僅かに動いている。
やけに細く、白いその物体が人間の下腿部だと気付くのに時間は掛からなかった。
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