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「さ、寒い……」
「外に出ると分かっていたのだから上着くらい着てくればいいんだ」
「だって教授、どのくらい外にいるのかどころか、どこに行くのかさえ教えてくれなかったじゃないですか。情報が足りないんですよ」
今はまだ秋。されどもう秋。秋は日が照っているときは暑いものの、日が陰れば冬並みの寒さをもたらす季節でもある。
車の中とはいえ、寒いものは寒いもので、助手席で「う~」やら「ふぅ~」やら奇声をあげ始めた自分の助手を見て溜め息をつき、運転中にもかかわらず器用に脱いだ自分の上着を沙弥に投げつけた。
「痛いなあ……何するんですか、なんでこの距離で投げつけるんですか。また嫌がらせですか」
「またとは何だ、またとは。僕がいつ何をした。せっかく貸してやるって言ってるのに。返せ」
「嫌です……ありがとうございます、おとなしく着ときます。ちなみにですが、嫌がらせというのは溜めに溜めたあの書類の山です。もうあの量は嫌がらせ以外の何物でもありません。どうにかしてください」
「それは無理な相談だ」
「なんでですか! ただちゃんと仕事をすればいいだけの話じゃないですか!」
投げつけられたものではあったが、借りた上着は暖かかったのでそれはそれでいいのだが。
教授に仕事をさせるのはまだ無理そうであった。
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